各位
声明
安倍元首相の国葬と、児童・生徒の内心の自由を侵す
弔意の押し付けに反対します
安倍晋三元首相の死去に伴い、このほど同氏の国葬を9月27日に執り行うことが7月22日に閣議決定されました。
故人が突如として生命を奪われたことに対して哀悼の意を表します。いかなる理由があっても、暴力によって人命を奪うという行為は決して許されるものではなく、このたびの犯罪を強く非難します。
しかし、今回の安倍氏国葬の閣議決定については、その理由および決定に至る経過、憲法との関連から、特に、国葬に伴い児童・生徒に与えるであろう影響を考えるとき、私たちは安倍元首相の国葬に反対せざるを得ません。
国葬が予定されている9月27日は平日であり、学校・企業等は通常に授業・操業されている日です。この日に国葬が行われた場合、学校現場では「臨時休校」あるいは「服喪の時間」などの措置が取られることが予想されます。このことについては、故吉田茂元首相の国葬の際に、各省庁において弔旗を掲揚すること、葬儀中の一定時刻に黙とうすること、などが閣議決定され、各公署、学校、会社その他一般に対しても同様に通達された経緯があります。このことからも、特に義務教育年齢の児童・生徒たちに対して安倍氏に対する弔意の要請、故人の業績賛美等の指導が行われる可能性があることが懸念されます。
国葬に伴うこのような、休校あるいは特定個人のための服喪時間の措置は児童・生徒の学習権を侵害するものであり、また弔意の強要や特定個人賛美の指導が行われた場合は、内心の自由を侵すものであり、憲法および子どもの権利条約にも違反する極めて重大な問題です。
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政府与党は安倍氏の国葬を執り行う理由として、同氏が首相として歴代最長の期間を務めたこと、および内政・外交において顕著な業績を残したことを挙げています。しかしながら、教育基本法の改正、集団的自衛権の行使容認、アベノミクスが生み出した円安・物価高騰そして格差の拡大、いわゆる「森・加計・桜」問題などに見る国政の私物化、公文書の改ざん・隠ぺい等々、安倍長期政権が残した負の遺産はあまりにも大きいものです。これらに目を塞ぎ、国葬という形で国民に安倍氏に対する弔意を事実上強制し、同時にその業績を無批判に美化し、同氏に対する最高勲位の授与決定に加え、さらに安倍賛美のムードを煽ることで批判世論を封じようとすることは許されるものではありません。
また、同葬の必要経費はすべて国費で支弁するということであり、式典、各国からの要人の警護・接待等に相当額の出費が予想され、現在、物価高騰・コロナ問題等国民生活がひっ迫の度を増す中で、多額の税金を使って賛否の分かれるこのような行事を執り行うことに対して、真の民意が得られるものかはなはだ疑問です。
そもそも旧「国葬令」は日本国憲法施行時に憲法の理念に抵触していることから失効しており、現行法制のもとでは「国葬」には何ら法的根拠はありません。法的に根拠のないものを、しかも国会という議決機関を経ることなく、今回の閣議決定という、民主主義の根幹にもとる形で決定されたことに対しても怒りを禁じえません。
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私たち日本子どもを守る会は1952年5月発足以来、一貫して子どものしあわせの実現と健やかな発達を保障するために、日本国憲法と児童憲章の理念の完全実現を目指して歩み、さらには国連子どもの権利条約も重視して活動を続けてまいりました。
私たちはこの度の故安倍晋三元首相の国葬執行決定の報に接し、日本国憲法を遵守し民主主義および子どもをはじめすべての人々の基本的人権を守る立場から、安倍元首相の国葬の執行および児童・生徒に対する弔意の押し付けに強く反対の意を表するものです。
2022年7月23日
日本子どもを守る会